本作は「風景」を「移動」をテーマにしたインスタレーション作品である。鑑賞者は夜行バスのようなシートに座り作品を体験する。窓には車窓風景が流れ、「風景と移動」にまつわる物語が正面のスクリーンに投影されている。ただそこにある風景に対して多くの人が日々移動をしている。電車、夜行バス、乗用車など日常的なあらゆる移動の時間に思いを馳せ、また私たちはその速度についていけずトリップするような感覚になる。
「風景」とはヒトが意識的に外界を視ようとした時にはじめて浮かび上がってくるものだ。先程まで「風景」として受け取っていた光景が私たちの意識の的から外れた時、それらは山であり、窓であり、以前からそこにあった世界の断片のひとつに還っていく。実に曖昧な境界で、「風景」は存在しているように思うのである。インターネットで手軽にあらゆる場所の風景にアクセスできるようになり、旅先での新しい風景に対してどこかリアリティを感じられなくなった経験から、「風景とは何か」という疑問を持つようになった。
本作では、目まぐるしい日常の中で風景と忘れられてしまうものの一つとして車窓風景(移動中の景色)に着目して制作している。美術館という人々が意識的にものを視に来る場所でごく身近な日常の風景に遭遇することは、 そこでの眼差しの経験をある種のデジャヴュとして日々の生活に接続できるのではないか、と考えている。