何気なく日々踏み歩くこの道の下がどうなっているのか、私はよく知らない。夜の街で遭遇する道路工事では、作業員によってアスファルトが切り開かれ、埋め立てられているが、その下で何が起きているか具体的にはわからないまま、ただ通り過ぎる。
一昨年住んでいた街のSendlinger Torという駅は、私がいる間ずっと工事中だった。
剥き出しの配線やコンクリートの外壁からは、美しさのようなものを感じて私はその駅が大好きだった。
新しいイヤフォンのノイズキャンセリング機能は少し怖い。世界から引き剥がされたような感覚になるから。しかし、街ゆく人々はその感覚が心地よいみたいだ。
工事現場では、誰かの手によって作り上げられた「世界」がひび割れて、その下の「現実」が露出している。 私は整備された都市を生きる日々の中で、こうした光景を遭遇する時、最もこの「世界」へのリアリティを感じている。
複雑な物質・現象の集合体である都市を、私たちはその仕組みについて特別意識しなくても生きていくことができる。それってよく考えると奇妙で怖いことだ。私はノイズキャンセリングされゆくこの世界のディティールやリアリティを、今日も明日も、忘れないでいたい。
工事現場をテーマにしたインスタレーション作品。鑑賞者は道路を模したステージの上を通行することができる。展示空間には作者が街でフィールドレコーディングした環境音、工事現場の音が4chサウンドで流れている。
夜闇に行われている道路工事に遭遇する。道路が切り開かれ、そこには土が露出していて、私たちの知らない空間が広がっている。都市、街、地面は他者によって作られているのだ、ということに改めて気が付く。「道路」という日常の当たり前のモチーフを展示空間に持ち込むことで、意識的に道路を踏みしめることや、現実世界へのリアリティを再認識させる。